【実姫SIDE】
ヴー……
ヴー……
朝から鳴り始めたケータイに、あたしは顔をしかめた。
メールとは少し違うバイブの振動が、着信である事を知らせていて。
この時間に電話をかけてくる人なんて、誰も思い当たらない。
食堂に下りる途中で震えだしたケータイをポケットから取り出して、サブディスプレイを確認すると……
『着信 啓太』
……啓太?
啓太の名前を確認したあたしの足が止まる。
ヴー……
ヴー……
しつこく震えるケータイをしばらく眺めてから、止まっていた足を踏み出した。
……もう、終わった事だし。
今更何の用かとも思ったけど。
もう以前みたいな期待を寄せてはいないから。
あたしの考えるような展開が待ってる訳ない事ぐらいすぐに分かった。
騒ぎだす胸は、恋のドキドキじゃない。
手の中で震えるケータイが、啓太との嫌な出来事ばかりを思い出させて緊張すら覚えていた。
震え続けるケータイに、嫌なドキドキが止まらなく襲ってきて……しばらくしてようやく振動が止まった。
すぐに開いて、不在着信を消去する。
履歴に残っているだけで、なんだか嫌な気分になりそうで怖かった。
好きだったハズなのに、今はもう恐怖の存在に想いが形を変えていて。
それを少し寂しく思うも、もう、あたしの中に啓太の居場所はほとんどなくて。
時間と……先生の存在が、あたしを確実に啓太から離してくれていた。