「じゃあ実姫、よろしくねー」
諒子が笑顔で教室からあたしを送り出す。
どっちがお昼を買いに行くかを賭けたじゃんけんは、今日は諒子の勝利だった。
渋々購買に行くと、相変わらずの混み具合で。
その光景に深いため息が漏れた。
飛び込んでいくにも勇気がいるほどの人ごみに少しちゅうちょして……それでも気合いを入れて足を踏み出そうとした時。
「……何買うんだよ」
後ろから声を掛けられた。
まだその人物を捕えていない視覚の代わりに、聴覚がそれが誰だかを教えて、鼓動を速める。
振り向いた先には、首の後ろあたりを触りながらあたしを見つめる先生。
……そんな先生の姿に、視線を床へと落とす。
「……バンズパンとミルクスティック2つずつ」
「ついでだから買ってきてやるよ。……そこで待ってろ」
その言葉に戸惑って顔を上げると、優しく微笑む先生が目に映って。
コクンと頷いた。
先生はあたしを通り越すと、生徒で出来た人だかりに入って行って……そんな姿をつい目で追っている自分に気付いて背中を向けた。
「あれ、矢野センもパン?」
「つーか、矢野セン横入りだって! 俺のが先だったのにー」
そんな生徒の声を聞きながら、ドキドキする胸を押さえた。
たったあれっぽっちの会話が、嬉しくて仕方ない。