【実姫SIDE】



「実姫、どうかしたか?」


学校に向かう途中、後ろから和馬に声を掛けられた。

昨日の事とか、今朝の事ばかりを回想させてたあたしは、和馬の声にはっとして俯かせていた顔を上げる。


「ううんっ! なんでもないよ」


大げさに手を横に振ると、和馬が顔をしかめる。

じっと見つめてくる和馬に、涙の跡が見つかりそうで、さり気なく目を逸らした。


「和馬、本当に心配症だよね。そんな毎日何かある訳ないじゃん。

啓太とは別れたんだよ? 何にもないって」

「……本当に?」


和馬の真剣な顔をうっかり見てしまって、少しだけ答えるのに戸惑う。


『実姫はいつもそうなんだよ!』

和馬がそんな風に心配してくれてる事を知ったあの時から……もう、ちゃんと話そうと思った。

今度からはちゃんと言おうって……思った。


だけど……

だけど、言えない。


先生が、好きだなんて……言える訳ない。


言えないよ―――……。



「うん。……あのね、本当は昨日よく眠れなくて。

……でも、それだけだから大丈夫」


笑いかけると、和馬が安心したように微笑んだ。

その笑顔に、罪悪感からか、ズクンと胸が痛む。


痛む胸に落ち着かなくて何気なく手を入れたブレザーのポケット。

その小さな暗闇の中で、『忘れ薬』が転がる。


指先に当たるそれに、あたしは表情を歪める。