『実姫、明日俺予定なくなったから。13時に駅前来いよ』


電話の向こうで、啓太の声に混ざって女の子の声が聞こえてくる。

賑やかな場所にいるらしき啓太に、あたしは上がったハズのテンションを少しだけ下げる。


「啓太……今どこ?」

『関係ねぇだろ。じゃあな』

「あ、啓……」


遠慮がちに聞いたのに、返ってきたのは舌打ちと冷たい言葉。

一方的な電話に、自然とため息が漏れた。



中学卒業式後の、あたしの告白をきっかけに付き合うようになった。

最初は優しかった啓太は……付き合って2か月経った頃、豹変した。


週に2回だったデートも、月に2回程度になって。

それも全部啓太の都合に合わせる感じで。


行き場所も時間も、あたしの意見なんか聞いてくれる事がなくなった。


そのうちに態度が気に入らないって、暴力を振るうようになって……そうされるうちに、啓太が最低な男だって分かった。

分かった……けど、別れたくなくて……。


だって啓太は、1人ぼっちだったあたしを受け入れてくれた人だったから。

手を差し伸べてくれた人だったから。

優しく……頭を撫でて笑わせてくれた人だったから。



最低男。

そう分かっていても、啓太に嫌われたくなくて。

いつか、昔の啓太に戻ってくれるような気がして。



昔の優しい啓太が

あたしに希望を持たせて、関係を繋がせていた。