【矢野SIDE】


涙で濡れてる市川の唇にキスをして……、再び市川を抱き寄せた。



しばらくそうしてから、市川の頭をポンポンと2回撫でる。

すっかり大人しくなってされるがままの市川に……、飛んでいた理性が再び宿る。


「もう戻れ。……そろそろ集会も終わるだろ」


目を合わせないまま言うと、市川は呆然としたままゆっくり頷いて、数学学習室を出た。

ピシャンと小さな音を立てて閉まったドアを見てから、その場にしゃがみ込む。


……やべぇ。

絶対やべぇだろ、今の。


「つぅか……」


言葉には出来ない気持ちにため息を落としながら、もたれた頭を両手で抱える。

ため息ばかりが出る身体をどうにも出来ずに、そのまましばらくそれを繰り返した。


「何やってんだよ……俺」


小さな独り言を呟いて、髪を掻く。

むしゃくしゃとも、イライラとも違う感情が身体ん中で暴れまわっていて、どうしたらいいのかさえ分からない。


それでも、賑やかになってきた校舎内に、2時間目の授業の開始が近い事を知らされて。


俺は立ち上がって、教材を揃えて教室を出た。


頭ん中が……

市川の事でいっぱいだった。