「……先、生?」


今の状態に、頭が追い付かない。

でも、言葉だけが先行して口から零れた。


先生は答えずに、あたしを抱き締める腕に少しだけ力を込める。


「……そんな訳ねぇだろ。

おまえはよく頑張ってる。1人でよく頑張ってるよ。

俺がちゃんと見てるから……大丈夫だから心配すんな。

そんな顔して無理して笑うんじゃねぇよ……」


先生の胸から振動する声が届く。

何も言えないでいるあたしを抱き締めながら、先生はさっきの言葉とは違う声のトーンで続けた。


「母ちゃんもそのうちふらっと帰ってくるって」


かなり軽めのトーンで言われた言葉に、小さく笑う。


「……超いい加減」

「前向きって言えよ」


先生の言葉に言い返そうとして……でも、瞳から溢れ出そうとする涙に、それを止められた。



『おまえはよく頑張ってる』

『俺がちゃんと見てるから……大丈夫だから心配すんな』


先生の言葉が……、嬉しくて仕方なかった。

先生の事が好きだから、とかそんなんじゃなくて……。


自分の頑張りを認められた事が嬉しくて。

あたしなんかを見ててくれた事が嬉しくて。


『頑張ってる』

ずっと誰かに言って欲しかった言葉に、涙が止められなかった。


安心と今までの不安が一気に溢れ出て、その気持ちが涙になって零れ落ちる。