その日の夜、ケータイが鳴った。


『着信 啓太』

ディスプレイが映し出した名前に、あたしは通話ボタンを押すのをちゅうちょした。

長いコールに、迷って……そして。


「……はい」


電話に出たのは、あんなメールで別れを切り出した事に、小さな罪悪感を感じてたから。

いくら啓太相手でも、メール一通で終わりにするなんて申し訳なく感じてたから。


『実姫? ……俺』

「……うん」


珍しく落ち着いた声の啓太に、唇をきゅっと噛み締める。

何を話せばいいのか分からなくて、少しだけ沈黙が走って……それを啓太が破る。


『あのさ……今近くにいるんだけど会える? ちゃんと話したい』


それは……、ここ1年の中で一番優しい言葉だった。


『会える?』


そんな風に誘われたのは、初めてのデート以来で。

啓太の意外な言葉に、戸惑いを隠せなかった。


会う必要なんてなかった。

会ったって気持ちは変わらない。

電話で十分……。


……だけど、優しい時の啓太が一瞬だけ浮かんで。

メールでの一方的な別れへの罪悪感がよみがえって……あたしは、ゆっくりと頷いた。