「実姫食べないのー? せっかく買ってきたのに」


あの後、あたしを探し回ったらしい諒子の文句を聞きながら教室に戻った。

諒子の戦利品のパンを目の前に……どうしても食べる気になれなかった。


「ガム噛み始めちゃったから……ごめん」


諒子に、できる限りの笑顔を向ける。



味のしなくなったガムが、自分の想いの結末を表しているようで……。

やりきれない気持ちになる。


「先生、か……」


諒子が席を外してる間に、ぽつりと呟いてみる。

先生。

先生。

先生……



頭を過ぎる「先生」の笑顔に、味気のなくなったハズのガムが苦味を帯びる。


「先生……」


その呼び方が、少しでも自分の気持ちのストッパーになるように願いながら、あたしは何度も心の中で呟いた。


刺激のなくなったガムが、胸に鈍い痛みを覚えさせた。