ベッドに横になりながら、クッションを眺める。

弾力性もそんなになくなってる黒いクッション。

矢野の香水の匂いが鼻をくすぐって、今日の学校での事を思い出させた。


思い出しただけで胸が締め付けられて……、

あたしは、矢野が触れたおでこの辺りに手を当てる。



ありえないよ……。

先生を好きになるなんて、そんなの……ありえない。


……なのに。

なのに、なんでこんなに矢野の事ばっかり考えちゃうんだろう。

なんで、こんな当たり前みたいに矢野の居場所があたしの心の中にあるんだろう。


今まで気付かなかったあたしがおかしいくらいに……

心の中が、矢野でいっぱいだった。



「市川? おまえがいつも見てる番組始まったけど?」


ドア越しに矢野の声が聞こえて、あたしは身体を大げさに飛び上がらせる。

そして、バクバクと煩い心臓を誤魔化すように落ち着いた声で答えた。


「……今日はいい、です」



身体と一緒に跳ね上がった心拍数ですら、矢野を好きだって言ってるみたいで……。

見たくない気持ちに、あたしはクッションに顔を埋めた。



一気に矢野の香りが身体中に広がって……


おかしくなりそうだった。