あたしの見つめている先で、矢野がおもむろに片手でネクタイを緩め始めた。
その仕草に……、
あたしの胸がキュっと縮こまる。
苦しくなった胸に気付いて、あたしは思いっきり首を横に振った。
違う!!
あの仕草はもともと女の子がときめいちゃう瞬間なんだって!
よく雑誌とかに書いてあるもん。
1位 タバコに火を着ける瞬間
2位 車のバック
3位 ネクタイを緩める
みたいな事、特集されてるもん。
だから……、
別にあたしがどうとかそういうんじゃっ……
「……おまえ、どうした?」
もう一度首をぶんぶんと振ったところで、矢野に声を掛けられた。
不思議そうに、変なモノでも見るような矢野に……恥ずかしくなって俯く。
「……なんでもないです」
気恥ずかしくて使った敬語に、矢野は顔をしかめて……少し身を乗り出して、不意にあたしのおでこに手を当てた。
「……―――っ!!」
「あれ、ないな。
市川の事だからてっきり体調悪いの我慢してんのかと思ったのに」
そう言ってふっと笑う笑顔に、
ふわっと香った香水に、
矢野の、大きな手に……、
『矢野は教師』
自ら張った予防線が、揺すぶられていた。



