【実姫SIDE】


「頭が痛い」

「……」

「なんかすっごい痛い」


夕食を食べながら言うあたしをよそに、矢野が黙々と箸を進める。

頭痛がする訳じゃない。

もっと外傷的な痛さ。

……まぁ、痛かったのはお昼休みの時だけで、もう痛くないけど。


「あんなとこで寝てるおまえが悪い」

「だからって教科書で叩く事ないじゃん。暴力反対」


うっかり言ってしまった『暴力』の言葉。

その言葉にしっかり反応した矢野が顔を上げて……、でも何も言わずにまた箸を進める。


「……啓太の事ならもう気にしないで。

……そのうちなんとかするから大丈夫」


啓太の事を口に出した途端に曇っていく感情に、あたしは目を伏せる。

そんなあたしに、矢野は何も言わなかった。


そのうち、なんて、それがいつになるのか、あたしにもよく分からない。


だけど、もうダメだって事は痛いくらい分かってるから。

しがみついてても仕方ない事も。


この関係の先に幸せが待っていない事に納得するのには、少し時間がかかったけど。

暴力を振るわれても、幸せなんかを望んでいた自分はとても惨めで……。

それを自分で認められた時には、苦笑いが零れた。


1週間、毎日悩んで。

事実を認めて、別れを決意した。


あとは……それを実行するだけ。


悩む事なんて何もなかった。

自分で思い起こしてみても、別れない方がいい理由なんて一つも見つからない。