「どうした?」

 歩の顔がビルを遮った。

 話すなら今だと思った。

「卒業してからのことなんだけど、さ」

「うん」

 歩も私の視線を追う。

「あたし、あのビルで働きたいんだ」

 その建物は、県で一番大きいファッションビル。

 私の好きな服屋さんがごっそり集結している。

「人気ブランドの会社って、ああ見えて意外に大卒ばっかり採るの。でも、高卒の私たちにも登竜門みたいなのがあるんだ」

「登竜門?」

「うん。アルバイトスタッフ。バイトで入って、長く続けるうちに社員に昇格するの」

「へえ、なるほどな」

「卒業したらまずバイトでそこに入って、社員になって……いい年になったら誰かに嫁いで寿退社。どう? あたしの人生プラン」

 歩を見ると、真剣な顔をしてビルを眺めていた。

 その顔がパッとこちらを向いて、

「いいんじゃない?」

 優しい笑顔をくれた。