「やだやだ、行かないでよ」

「あははは」

 笑いながら、歩は遠くへと行ってしまう。

 私は呼び止めようと必死だった。

「歩ー!」

「なに?」

 一際はっきりした声に、私はパチッと目を覚ました。

 目の前には歩。

 クスクス肩を揺らして笑っている。

「え……? あれ?」

「やっと起きた」

 状況がよく飲み込めない。

 何が夢で何が現実なのか、しばらく混乱した。

 起き上がって時計を見ると、昼の2時を過ぎていた。

 携帯には歩からの着信が何件も入っている。

「うわ、最悪……」

 こんな大事な時にぐっすり眠ってたなんて。

「おそよう」

 歩がベッドに上がってきて、スプリングがググッと揺れる。

「ごめん……すっかり眠ってた」

「ほんと、電話にも出ないし、シカトされてんのかと思った」

「シカトなんてしないよ! 歩の夢見てたし」

 切ない夢だったけれど。