携帯を閉じて、目も閉じる。

 コチコチと時計の秒針の音が耳障りだ。

 それくらいナーバスな時、頭をよぎるのはろくなことじゃない。

 この日の場合、さっき見た二つの影のことだった。

 二つの影は急にグイッと近づいたのだ。

 これは男女が抱き合ったとしか――……。

 ヴー ヴー ヴー

 思考を遮るように震え出した携帯。

 メールだ。

 受信元は……歩。

 23時48分、鼓動は一気に跳ね上がった。

 心臓に合わせてピクピク震える親指で、何とかそのメールを開く。

<誕生日おめでとう。遅くなったけど、ギリギリセーフ?>

 やだ、どうしよう。

 嬉しいよ、歩。

 滲む眩しい画面。

 私は短く返信をした。

〈ありがと〉

 これ以上は打てなかった。