「そういえば、西山から何か言ってきた?」

「え?」

「おめでとうとか、おめでとうとか、愛してるとか」

「あはは、あるわけないじゃん。もう別れちゃったんだし」

 不服な顔をしながら、母作のケーキを頬張った聡美。

 紅茶をグビグビ飲み干して、一言。

「あんなやつ、地味山に降格よ!」

 なんだかおかしくなって、私は大爆笑。

 そういえば地味山という裏のあだ名があったんだった。

 今年の春頃までそう呼ばれていたのに、もう懐かしく感じる。

 夕方、聡美は

「夕飯食べていかない?」

 という母の誘いを

「私もいい加減受験勉強しなきゃいけないから」

 と断って、うちを去って行った。

 彼女を見送り、母と夕食を食べて部屋に戻り、今日もカーテンを少しだけめくってみた。

 明かりはついているのに、左下に影はなかった。