その質問に答えたのは歩だった。

「ああ、俺。携帯にかけても出ないから」

 母はまた「ごめんねぇ」と甲高い声を上げた。

「じゃ、おばさん。恵里をお借りします」

「どうぞどうぞ」

「遅くならないようにするよ」

「歩君が一緒なら遅くなっても安心よ」

 すっかり歩を信用している母の言葉に、歩は靴を履きながら苦笑いを浮かべた。

「はは、俺が一番危険だと思うけどね」

 なっ……何を言ってんだ、こいつは。

 そんなこと言ったら……。

「え? どういう意味? あなたたち、そういう関係なの?」

 ほら、バレちゃうじゃない。

 彼は営業スマイルのまま、

「さぁ」

 と濁した。

 驚いている母の顔は、ちょっと嬉しそう。

 幼馴染である歩と「そういう関係」だなんて、母に知られるのは恥ずかしかった。