「付き合ってたのは一年の頃だし、三年に上がってクラスが一緒になっただけで、ほんとに何もないから」
何もなければ、匂いも付かなければ髪の毛も落ちてこない。
疑いの眼差しは続行決定。
「じゃあ何で今更元カノの匂いを付けて帰ってきたのよ?」
歩に向けたはずの質問は、橘さんから返ってきた。
「私がわざと付けたの」
「どうして?」
「二人をもめさせるためよ。別れたら、よりを戻すチャンスが生まれると思って」
私が悩んだのも、泣いたのも、彼女の思惑通りというわけか。
歩は短くため息をついて、
「昨日はよりを戻したいっていう申し入れを断るために一緒に歩いてたんだ。何かしようってわけじゃなかったんだよ」
と言って私の頭を軽く撫でる。
そうだったんだ……。
ああ、昨日わた兄とヤケクソで浮気なんてしなくてよかった。



