ここで車は走り出した。

 涙に濡れた目の周りが、エアコンに冷やされてやけに冷たい。

「これからどうしますか? お姫様」

「……遠くに行きたい」

「かしこまりました」

 泣き虫な私を乗せて、車は走る。

 歩と離れたくて仕方がなかった。

 裏切られた確証を得たわけではない。

 だけど、実際に女と二人で歩いていたのを見てしまった。

 香水の匂いが移るほど、触れ合ったことに間違いはない。

 ただの学友なら、何もないなら、そう言えばいい。

 歩は隠そうとしてた。

 何かあるってことだ。

 ポケットの携帯が震えている。

 ディスプレイに映る歩の名前が滲む。

 私はそっと電源を落とし、再びポケットに収めた。

「わた兄」

「んー?」