イレーヌに雇われる前は某国で諜報部員だったというメリッサの腕は、衰えていなかった。

一晩かけて旧コードから新しいコードを割り出し、アーティカへ連絡を取ることに成功した。
その後、通信室でメリッサを引き寄せたのはフレディにとってはごく自然な流れだった。

イレーヌにばれたら問題になるだろうが。

ルッツが舌打ちする。


「どじったみたいだ。後ろから車来てる」


ルッツの耳は、ディオにはまったく聞こえていなかった背後の物音をとらえていた。


「ダナ。座席の下」

「了解!」


ダナが身をかがめる。

座席の下に武器が隠されているのは知っている。


「ディオ君は頭さげておいてねー。

頭に弾当たったら困るでしょ」

「俺はどうする?」

「俺が死なないように祈っててくださいな。

あ、俺に何かあったら、車の運転よろしく」


よろしく、と同時にルッツはハンドルを切った。