「自分たちの次の主の顔も知らなかった?」
「だって、あたしたち王宮に行く機会なんてないし、
新聞の写真じゃ不鮮明すぎて顔なんてわからないし」
ダナは口を閉じた。
立ち上がり、一歩下がって頭を下げる。
「……いろいろと申し訳ありませんでした、殿下」
「やめてくれよ」
ディオは手をふった。
「君が今まで通りにしていてくれないと、僕が困るんだ。
駆け落ち中なんだからね、僕たちは」
「……はい」
見えない壁が、二人の間を隔てている。
こんな壁なんていらない。
瞬時にしてそびえ立った治める者と手足となる者の間の壁。
欲しいのは、主への忠誠心などではない。
欲しいのは。
ディオの思いとは裏腹に、部屋の中を支配した沈黙は、
その座を明け渡すことはなかった。
「だって、あたしたち王宮に行く機会なんてないし、
新聞の写真じゃ不鮮明すぎて顔なんてわからないし」
ダナは口を閉じた。
立ち上がり、一歩下がって頭を下げる。
「……いろいろと申し訳ありませんでした、殿下」
「やめてくれよ」
ディオは手をふった。
「君が今まで通りにしていてくれないと、僕が困るんだ。
駆け落ち中なんだからね、僕たちは」
「……はい」
見えない壁が、二人の間を隔てている。
こんな壁なんていらない。
瞬時にしてそびえ立った治める者と手足となる者の間の壁。
欲しいのは、主への忠誠心などではない。
欲しいのは。
ディオの思いとは裏腹に、部屋の中を支配した沈黙は、
その座を明け渡すことはなかった。