この笑顔を見て、悠斗はもう葵は大丈夫だと確信した。

「葵、オレはまだちょっと用事があるんだ。すぐ戻ってくるからそれまでちゃんと寝てるんだぞ」

葵は微笑を湛えたままコクンと頷く。

「いってらっしゃい」

悠斗はまた葵の額に軽くキスすると立ち上がって茶室を出た。

茶室の外には華音と龍ヶ崎が待っていた。

「華音……」

「お主はどうやら己に打ち克ったようだな。だがまだ、お主にはやることがあるであろう?ここは我に任せて、早く行くがよい」

「ああ。ありがとな華音」

悠斗は走り出していた。

もう全て終わったはずで、何の心配もなくなったというのに、どうしようもない焦燥感にかられていた。

急がなくては。

悠斗はその思いだけで走り続けた。


悠斗が小学校に戻ったときにはもうすでに匠の姿は見えなかった。

代わりに匠がいた辺りのフェンスに何か細長いものが巻きつけられているのに気がついた。

「何だ、コレ?」

悠斗はその紙をほどくと中を開いた。

そこには、真面目そうな匠の字がつづられていた。

それは悠斗宛の手紙だった。

悠斗はそのまま手紙を読み始めた。

手紙を読み終えると、悠斗はその場に蹲り涙を流した。

それは、慟哭ともいえるものだった――。