スカーレット


 わかってる。

 わかってるけど……。

 へたり込むようにソファにうなだれると、院長は再びファイルを漁りだした。

「正確な相手はわかりませんが、一つヒントになるものがあります」

「え……?」

 裏を返したまま、テーブルに白い紙が差し出された。

 ドクッ……

 私の体は、再び自分の意思に反して反応を示す。

 動悸、冷や汗。

 私の体が、その紙を拒否しているように思える。

「これは?」

「同意書です」

「同意書?」

「はい。この国には母体保護法という法律がありまして、人工中絶の手術を受ける場合、基本的にご本人とパートナーの方から、同意書にご署名頂く必要があるんです」

 それじゃあ、この同意書に相手の男の名前が書いてあるってこと……?

 動悸は治まらない。

 だんだん息苦しくなってきた。

「ただし……」

 院長は一旦同意書を引き戻して続けた。