また一つ、謎が生まれた。
しかしこの謎を紐解くヒントは、もうこの病院にしかないのだ。
「教えてください。子供の父親」
院長は悩むように暫く黙り、スッと息を吸った。
「申し訳ありませんが、お答えしかねます」
「どうして……? 私、本人なんですよ? 記憶がないんです! でも知りたいんです! もうここにしか、情報は残ってないんです……!」
すがるようにまくし立てると、
「十和田さん、落ち着いてください」
女医が立ち上がって私の肩に触れた。
記憶がなくなってから、ずっとそうだった。
みんなが私に嘘をついていた。
どうしてみんな隠そうとするの?
今度は悔しくて涙が溢れる。
それを拭うことなく、ただ院長を見つめた。
「正確な相手は本人にしかわかりません。我々は安易に相手が誰、と言えないんです。ご理解いただきたい」



