スカーレット


「私が中絶の手術を受けたのは、8月6日でしたね」

「はい。私が執刀しました」

 院長が頷く。

 女医は黙ったままだ。

「この時、私は妊娠何週目でしたか?」

 院長は持ってきた書類のファイルを開いた。

 暫く目で追って、

「8週目です」

「それは、時期として……いつ頃の性交渉で妊娠したんでしょうか」

 彼は手帳を開き、目と指で何かを……恐らく日付を追っている。

「6月の15日から22日くらいの間です」

 出てきた答えに、私は握っていたレポート用紙を確認した。

 ああ、やっぱり。

 堕ろした子供の父親は、角田一郎……いや、黒木隆志ではなかった。

 6月15日から22日の間、私は彼と会っているわけがない。

 なぜなら、彼は私の前から姿を消し、逮捕されていたのだから。