残りのリンゴは、全て母が食べた。

 母と話をして、わかったこと。

 私たち十和田家は10年前に父を亡くし、それからは母がスナックを経営して生計を立てていたこと。

 私も店を手伝っていたこと。

 恋人の勝彦とは店で出会ったこと。

 後は、身に覚えがなさ過ぎて覚えられなかったのだ。

 何を聞いても他人事のようにしか聞こえなかった。



 私は明日にでも退院できることになった。

 夕方には弟の正樹と勝彦も病室へきてくれて、退院の知らせに安堵の表情を見せる。

「雅代さん、お願いがあるんです」

 勝彦が突然、真剣な顔で母に頭を下げた。

「紀子は僕が一生面倒を見たいと思ってます。結婚などはこれからの本人の意思に任せるとして、暫く一緒に暮らさせてください」

 当然驚く母と正樹。

「一緒に暮らす話も、二人でしていたんです」

「そうは言っても、こんな状況じゃ……」

「今まで隠れて付き合ってきた分、一緒にいる時間が欲しいんです。お願いします」

 勝彦は私から見ても必死だった。