スカーレット


「あの、実は私……」

 記憶がなくなったことの説明をした。

 さすがに先生も驚いているようだ。

「それで、ピルを処方されていることを知ったものですから。理由が知りたいんです」

 三宅医師もまた、眉を下げて困った顔をする。

 彼女もまた、曖昧な説明しかしてくれないのだろうか。

 何も得ないわけにはいくまい。

 あまり深刻に捉えて欲しくなくて、軽い感じで言ってみる。

「あの、避妊のためだとは思うんですけど、まあ一応、念のため。ね?」

「そうですか……」

 おどけたつもりが、逆効果。

 こういう時も、スベッたというのか?

 先生は組んでいた脚を戻し、顔はますます真剣になった。

 カルテを眺めて、悩んでいるようだ。

 嫌な予感がする。

「何でも、言ってください。知らないままは嫌なんです」

「わかりました」

 そして、私に少し近づき、小さな声で告げた。

「先月、8月の6日。あなたはここで、中絶の手術を受けています」