スカーレット


 医師は鼻でため息をつき、眉を下げて微笑む。

 あ、またこの表情……。

「具体的に何があったかは、私にはわかりません」

 本当に知らないのか、それとも記憶をなくした私に隠しているのかはわからない。

 どちらにしろ、期待外れだ。

 得られた情報は、私が精神的に参っていたことと、不眠症だったこと。

 収穫がゼロではないことを噛み締めながら、私は病院を出た。



 次に向かうのは三宅産婦人科医院。

 地図によると少し離れているようなので、鷲尾総合病院からタクシーで移動した。

 タクシーのにおいって、嫌い。

 旧・紀子も同じだったかな?



 三宅産婦人科は、さっきの「いかにも総合病院です」といった感じとは全く雰囲気が違って、壁も薄いベビーピンク。

 受付はおばちゃんで、保険証と診察券を渡すと

「今日はどうされました?」

 と、優しい笑顔で微笑みかけてくれた。

「あの、ピルのことで相談したいんですが」

 おばちゃんは思い出したように私を見て、

「座ってお待ちください」

 と私を促した。