勝彦はいつも、帰ってくるなり私を力いっぱい抱きしめる。
記憶がなくなって空っぽな私に、彼の愛が注入されていく。
彼は部屋に入ってスーツを脱ぐと、キッチンに立つ。
そう、いつも夕食は勝彦が作ってくれるのだ。
それを私は彼の隣でじっと見つめる、というのが生活スタイルになっていた。
「ねえ、あたしって料理できない子だったの?」
「どうかな」
「作ろうか?」
「いいよ。火や刃物を使わせるのは、まだ少し怖いからね」
そっか。
ガス漏れ事故で記憶をなくしたんだっけ。
彼は慣れた手つきでどんどん料理を完成させていく。
ご飯くらいは私がよそって、テーブルに運んだ。
「いただきます」
「どうぞ」
彼のご飯はなかなか美味しい。
私が作るようになったら、これ以上に美味しいものを作るのが女のプライドな気がしてプレッシャーを感じるほどだ。