スカーレット


「無理に思い出さなくていいんだよ」

 この言葉も、もう嫌いじゃない。

 彼は寝そべった私を抱きかかえて膝の上に乗せた。

「うん、もう思い出したくない」

 ははっと笑った彼に、自分からキスをした。



 旧・紀子はきっと普通の幸せを夢見ていた。

 歪んだ幸せから目を覚まそうとしていた。

 つまり、正樹から離れようとしていた。

 なのに夢見て飛び込んだ男に騙され、また正樹に頼って……。

 妊娠、中絶、自殺。




 紀子、記憶を代償に、私は手に入れたよ。

 ありふれた、幸せ。