スカーレット


 小さな声で、でも、堂々と語られる背徳行為の全貌。

 思い出せない、私自身の過去。

「体だけ。そこに愛なんて、なかったはずだよ」

 正樹が穏やかに笑うものだから、私はまたわけもわからずに涙が出てきた。

 愛はなかった。

 それを信じていいのなら、どうして私の体は涙を流すのだろう。

 私の涙を見ても彼は動じない。

 少しだけ眉を下げただけで、私を慰めようとも涙を拭おうともしなかった。

 だから自分でティッシュを見つけ、それで涙を拭く。

「ねえ、私が妊娠したって知ったとき、正樹はどう思ったの?」

「酷なこと聞くなよ」

「……ごめん」

 新たに生まれた謎。

 正樹との間に、愛はあったのか。

 あるいは、片思いか。

 すでに迷宮入りしてしまったこの謎は、きっと一生抱え込むことになる。