門限なんてわずらわしい言葉に理解をしめしてくれる樹に、改めて胸が締め付けられてすぐに触りたくなるから、ちょっと困るけど。
「ちゃんとごはん食べた?」
『ああ。昨日カレー作ったんだけど、瑞希がいないから後二日は持ちそうで、ちょっと飽きてきたとこ』
「量加減して作ればよかったのに」
『もう完全にくせだな。よく考えたら、瑞希と一緒に生活し始めて一年半くらい経つし。
だからこんなに変な喪失感感じてんだろうな』
「……モノじゃないけどね。プリンは?」
『食ったよ。……おまえさー、毎日プリンだけ置いてくのやめろよな。つぅか、いい加減松永も諦めろよな』
「なんかもう恒例になって、教室でも誰もひやかしてこないよ。……いつも一応断ってるんだけど、なんか『プリンやりたいだけだし』って。
なんなんだろ、松永。ここまでされると気持ち悪いよね。もらったプリンも本気で怪しくなってくるよね」
『それを俺に食わせてるわけか……。勘弁しろよ、大事な時期なのに』
笑いながらもため息をついた樹の仕草が、電話越しに伝わってくる。
困ったような笑顔が、あたしを甘やかしてくれている感じがして、好きなんだけど……。
ここからじゃその表情を見ることはできなかった。
月明かりの中、樹だけにスポットライトがあたってるみたいに見えるのは……、
冬の澄んだ空気が見せる、目の錯覚なのかな。
それとも、素直じゃないあたしの気持ちの表れなのかな。



