「はい」
『俺』
電話越しの樹の声。
その声に、出窓の枠部分に座って窓から外を見下ろす。
うちの前の壁に背中を預けてケータイを耳にあてる樹の姿が視界に入って、自然と頬が緩む。
「寒くない?」
『大丈夫。寒くなったら帰るし』
あたしのいる出窓を見上げる樹が、小さく笑ったのが分かった。
こんな近くにいるのに窓越し、電話越しってとこが、なんだかじれったくも感じるけど……。
樹とのこんな電話が始まったのは、6日前。
『窓の外見てみ』なんて言った樹に、驚いた。
門限前だし、入ってくればって言うあたしに、樹は苦笑いで首を振った。
『お兄さんの許可がないとマズいし。……それに、せっかく家に帰ってきてるのに、俺の事で怒らせてばっかじゃ悪いだろ』って。
お兄ちゃんは、勝手に帰ってきてその理由も言わないんだし、怒らせようが泣かせようが別に構わないとも思うけど……。
でも、お兄ちゃんとの今の生活を大切にしたいって気持ちが生まれつつあるあたしには、樹の言葉は嬉しかった。
週末にしか一緒の時間が過ごせなくなったのに、それに対して文句も言わないし。
……思ってても言わないだろうけど。お互いに。



