「心配しなくても、俺は瑞希を置いてどっか行ったりしねぇから。
いくら足が速くても、瑞希からは逃げようとは思わないし」
「……やっぱりサムい」
「瑞希を置いて、なんて……やっぱ、考えられねぇし」
「……?」
樹の言葉の少しの間が、違和感を残す。
なんか、さっきの言葉だけ、種類が違う気がして、思わず聞く。
「なんかあった?」
「ん? なんもねぇけど。
なんとなく……んな事より、いつまでそんな格好してんだよ。風邪引くから早くなんか着ろ」
「だって、樹が、名残惜しいみたいで全然離してくれないんだもん。
あ、歳だし、疲れたとか? 若ぶって無理しなければいいのに」
笑いながら言ったあたしを、後ろから抱き締めたままの樹が軽く小突く。
……だけど、突然気付いた事実に、樹はピタリと動きを止めた。
「……俺、今、すっげぇ事に気付いちゃったんだけど」
そう前置きした樹に、あたしも薄々気付いていた事を口にする。
「……時間でしょ?」
ただ今、21時40分。
……門限まであと20分。



