小さい頃、足元を見ないでお兄ちゃんの背中ばかりを追いかけて走ったから、よく転んだ。
その度に泣き出すあたしに、お兄ちゃんはいつも優しくしてくれて……。
お兄ちゃんが塗ってくれた薬は、絶対に効いて、すぐに傷は治っていった。
どんなに小さな約束でも、あたしが勝手に取り付けた約束でも、お兄ちゃんはいつもちゃんと守ってくれてた。
少しくらいの無理なんて気にもしないで……いつも。
あたしは……お兄ちゃんが無理してでもあたしを大切にしてくれている事が嬉しくて。
ずっと、お兄ちゃんに甘えてた。
親代わりをしてくれたお兄ちゃんに。
誰よりも近い存在だったお兄ちゃんに……。
大好きなお兄ちゃんに、甘えっぱなしだった。
お兄ちゃんがあたしを大切にしてくれてる事が分かってたのに……。
なのに、なんでいつも素直になれなかったんだろう。
「ありがとう」の一言も、伝えられられなかったんだろう……。
もっともっと、あたしが素直になれていたら。
お兄ちゃんだって、こんなにあたしを心配する事なく、里香さんと真人くんとの生活を過ごせていたかもしれないのに。
ぐっと胸が苦しくなって、ぎゅっと歯を食いしばった。



