「……言っとくけど、『おぼっちゃま』とか呼ばれてねぇから」
「っていうか……、今は何を言われても、可愛くしか思えないから。
ごめ、……今こっち向かないで…、お腹痛い……っ、」
「おまえなー……」
お腹を抱えながら笑っていると、樹はバツが悪そうに顔を背けた。
そんな仕草さえも可愛く思えてしまって、もうどうしようかと思っていた時。
ガチャっと音が鳴って、ドアが開いた。
その音に背筋をぴんと伸ばす。
今まで堪え切れなかった笑いが、嘘みたいにあたしの中から一瞬にして消え去った。
笑いの代わりに場を包んだ緊張が、身体を固まらせて心臓を倍の速度で鳴らす。
「そんなに緊張すんなって」
「そんなわけにいかないでしょっ! 大体、なんであたしが……」
固まったあたしを見て苦笑いを浮かべた樹に言い返そうとして、でも、誰かが入ってきた気配に言葉を飲む。
そして、ドアにゆっくりと視線を向けた。



