「おまえ、俺の話もちゃんと聞けよ。
昨日から俺の言葉なんか全然聞かないで勝手に話進めて、しまいには別れ話とか……。
勘弁しろよ。心臓に悪い」
「……樹の話?」
聞き返したあたしに、樹は困り顔のまま言う。
あたしを落ち着かせるためにか、穏やかな声で。
「就職先なら、もう決めた」
「……はっ?!
決めたって、だって、そんなの急に……。
それに、MSC以上に好条件の場所なんて……っ」
「だから、ちゃんと聞けって」
再び制止されて、納得できないまま黙り込む。
あたしが口を閉じたのを確認してから、樹が続ける。
「条件も、『MSC』と同じレベルか、それ以上。
給料だって同じくらいだし、この不景気ん中、ちゃんと利益上げてる会社だから。
支店は日本各地にあるけど、俺は県内にある本社勤務になるだろうから。
瑞希は心配する事なんか何もない。
つぅか、最初から俺の話をちゃんと聞いておけば、何も心配する必要なんかなかったのに」



