「なに、片桐気分悪ぃの?」
「熱があるんだよね。もう帰れって言ってたのに、意地張って帰らないからー」
「へー。……俺、送ってくよ。車だか……」
「いい。あんた、絶対危険だし」
涙をぐっと堪えたあたしに話しかけてきたのは、たまに講義が一緒になる小島って男子だった。
皐がぴしゃりと断ったのには訳がある。
学年一チャラくて女に見境ないって噂の小島。
傷んでる茶色い髪に、平均的な体格。
へらへらしてはいるけど、真面目にしてれば、まぁまぁの顔。
狐みたいな目はカラコンで深緑色。
そこら中で手を出してて校内じゃ相手にされてないから、最近は他の学校の子ばっかり狙ってるって噂されてる。
意外と硬派な樹とは正反対のタイプ。
「……」
せっかく涙を抑え込んだのに。
うっかり樹の事を考えた頭に気付いて、また瞼が熱くなる。
当たり前に思考回路の中にいる樹に、涙がこみ上げる。



