アリサさんを嫌がって、距離を置こうとしてたのも、きっと……。
アリサさんが『MSC』社長の娘だって知ってたから、だから、あたしに変な事言わないように。
アリサさんの名字を伏せてたのだって、用心のためだ。
全部が、あたしに今回の件を気付かせないように。
自分の後悔を、あたしに気付かせないように。
「いい話じゃん……。こんないい条件、きっと他じゃないよ」
樹はあたしを抱き締めたまま動かなかった。
ただ、ぎゅっと……逃がさないように捕まえてるみたいだった。
あたしの言葉に、樹は掠れた声で答える。
「……でも、『MSC』があるのは関西なんだ。支店も……関西と九州地区しかない」
「……だから?」
樹の言おうとしてる事は分かってた。
だけど……、樹の口から、樹の声でちゃんと聞きたかった。
それが、どんなに胸を締め付けるか分かってたけど。
気持ちを探るなんて、もう嫌だったから。



