驚いた顔をした樹が、小さくため息をつく。
「松永に聞いたのか?」
「無理矢理聞き出したの。……なんで、断ったの?」
もう一度聞くと、諦めたのか、樹はあたしの隣に腰を下ろした。
そして、前かがみの姿勢で両手を組む。
「別に……、確かに大企業ではあるけど、他に考えてる場所があったから」
「他って?」
「……」
答えない樹を見ると……、その態度が、樹の答えを表してるみたいに思える。
本当は、他の場所なんてないんだって。
「『MSC』だったら、陸上だっていい環境の中で続けられるんでしょ?
断る理由なんて……ないじゃん」
「おまえ、なんだよ。急に。松永になんか言われた?」
誤魔化そうとする樹に、イライラして立ち上がる。
そんなあたしを、樹は怪訝そうに見つめていた。
わざとなんでもない風な態度を取っている樹に、余計に頭にくる。
……あたしが、何も気付いてないと思ってる樹に。



