「10月の大会だって、見に行きました。
椎名先輩は順位を気にしてるみたいだったけど、俺からしたら椎名先輩は間違いなく優勝の走りでしたっ!
……俺も、中学まで陸上やつてたんです。けど、靭帯やっちゃって……落ち込んでいた時に、椎名先輩の走りを見て……本当に感動したんです。
その時から、勝手だけど、先輩に自分を重ねて見てた。高校3年間、椎名先輩の走りを追いかけ続けました。
先輩の走りが、本当に好きだから……だから、走り続けて欲しいんです……っ!
ちゃんとした環境で」
息を切らせるほどに熱弁した松永に、あたしは返す言葉も見つからなくて。
だけど……。
ホモ疑惑が浮かび上がるほど女っ気のなかった高校3年間、松永は樹の事を追いかけてたんだ。
……走れなくなった自分を重ねて、樹に夢を見てたんだ。
大学に入ってからも、ずっと……。
そう思うと切なくて……。
……だけど。
それがなんで、あたしが樹にはふさわしくないって結論に結びつくの?
樹が好きなあまり?
分からなくて隣の樹を見ると、樹も不思議そうに松永を見ていた。



