「だから、言ってないし顔も合わせてないんだから樹は気付く事もできないでいるだけ。
普段だったら絶対に気付いてるもん。
お兄ちゃん以上の観察力であたしを見ててくれてるから」
睨んだまま言い切って、ビーフシチューが煮えるお鍋に向き直る。
ぐつぐつと煮えるシチューをかき混ぜていると、諦めたのか、お兄ちゃんはリビングの方に歩いていく。
そして、足音に続いて聞こえてきたのは……。
ピ、ピ、ピ……ピ……。
ケータイのプッシュ音に、慌てて顔を上げる。
嫌な予感がしてリビングを見ると……あたしのケータイを手に持つお兄ちゃんの姿があった。
「ちょっとっ、なにして……っ」
「椎名を呼び出す」
「なんで……っ、返してっ!!」
無理矢理ケータイを奪って、通話になってない事を確認してから閉じる。
それからお兄ちゃんを睨むと、お兄ちゃんは真剣な表情をあたしに向けた。



