でも、メールも電話もないところを見ると……。

多分、樹はかなり凹んでる最中なんだろうな。

って事は、樹は自分が悪いと思ってるのかな。


不安が爆発するほどに不満を感じてたくせに、それをひと言も責めないで自分で落ち込むなんて。

本当に樹は優しすぎる。



「瑞希、首どうした?」

「えっ」

「引っかいたのか? それ」


分かってて聞いてるのか、それとも本当に分からないのか。

お兄ちゃんの真顔に、返答に困る。


「えーっと、猫にね、やられて」

「猫?」

「そう。大学の中庭にね、大きな木があるんだけど、その上で猫が動けなくなってたの。だからわざわざ登って助けてあげたのに、地面についた途端、コレ」


ペラペラと答えたあたしに、お兄ちゃんは笑い出す。


「猫はなー。懐いたと思っても気まぐれにどっか行っちゃうような奴だしな。

自分本位でわがままで、自分が甘やかされたい時だけ寄ってきて。

俺は断然犬派だな。忠誠心が大事だろ」

「……」


なんかどっかで聞いた事のある「猫」の特徴に黙り込む。


まぁ、とりあえず、キスマークがバレずにすんだのはよかった。

こんなのがバレたら、また樹の株がガタ落ちするし。