すぐさまそう返したあたしに、樹は小さく笑ってあたしを見上げた。
交わされる視線。
なんだか遠く感じる樹に、小さく胸が鳴く。
『じゃあ、またな。週末は練習夕方までだし、俺の部屋くるだろ?』
「……樹が来て欲しいなら。っていうか、部活ばっかりやってて就活は大丈夫なの?」
思い出して聞いたあたしに、樹はなんでもないように軽く笑う。
『あー、まぁ、それなりにやってるし、どうにかなるだろ』
「……ふーん」
『それなり』に頑張ったくらいで大丈夫なのか、突っ込んで聞きたいところだけど。
でも、樹には樹なりの考えがあるんだろうし、言わないって事はまだ何も言って欲しくはないんだろうし。
『大丈夫だよ。心配しなくても』
減らず口を一時的に封印したあたしに、樹は『じゃあな』って優しい声で言って電話を切る。
出窓の枠に座ったまま、さっきまで樹がいた場所を眺めていると、すぐ近くから車のエンジン音が聞こえてきた。
重低音に、自然と笑みが浮かぶ。
最初はエンジンの振動と固いシートのコラボのせいで、お尻が痛かったけど、二年近くした今はもうすっかりあの助手席にも慣れた。
くつろいで寝るのは難しいけど……、決して居心地の悪い場所ではない。
近所迷惑なエンジン音が聞こえなくなってから、ベッドに移って仰向けに寝転がる。
そして、天井を眺めながら樹の部活の事を考えていた。



