「っていうか、こんな童話ってなかったっけ?」
『どんなだよ。主語つけろ』
「高い位置にいるお姫様が、低い位置にいる王子様と恋焦がれる話」
『話っつぅか、ワンシーンだろ? 石で出来た城のバルコニーみたいなところから、下にいる王子と見つめ合うやつな』
「そうそう。なんだっけ?」
『……さぁ。知ってるけど教えてやんない』
「なにそれ」
『おまえもせいぜい悩め。いっつも途中で諦めてんのも身体に悪い……いや、頭に悪いだろ』
「ドロ船がどの童話だったか分かったら教えてやるよ」なんて言いながら笑う樹に、小さく口を尖らせる。
樹みたいにとことん考え抜く方が身体にはよっぽど悪そうだし。
『さて。そろそろ帰るかな』
「明日も早いんでしょ?」
『ああ。駅伝出る奴らが集中練習してるだけで、俺みたいな短距離選択してる奴には関係ないんだけどな。部として一応』
「樹、長距離も結構いいところまでいってるじゃん。思い切って両方やればいいのに」
『んな事やってたら両方とも中途半端に終わるだろぉが。まぁ、今も中途半端だけどな。万年二位だし』
「二位はちっとも中途半端じゃないけどね」



