吉山は何も言わずにこくりとだけ頷いて、俺の服をぎゅっと握った。

ポンポンと軽く頭を叩いて、俺は何も言わずにそっと吉山から離れる。その時の吉山の表情を見てしまうと動けないような気がして、顔は見なかった。


「ん」


まだ湯気の立つホットミルクを新しいマグカップに注いで吉山の目の前に差し出した。

さっきと同じように両手で包み込むようにマグカップを持つと、またゆっくりと口に運ぶ、その吉山を見つめる。


「あったかい」


初めて笑った吉山を見て何となく秋が似合うなと感じた。


「浜崎くんって、変わってるね」


お前に言われたくねえな……。
苦笑混じりに吉山を見ると、吉山はまた嬉しそうに笑う。


「春になったら、一緒に花を撒きに行こうよ。ケチャのところと、浜崎君の猫の所にも」


まーそれもいいかもしれないな。
あいつは春が好きだったから、きっと喜ぶだろう。



「その前にさ、一緒に帰りに並木道で横になろうか」

「……やだよ」

「一緒だったら、寒くないかもしれないから」



秋が似合う女は秋に埋もれて泣く姿も似合うだろう。
だけどきっと、秋の寒さを忘れるような暖かい笑顔を向けるんだろうな。



「お前って秋みたい」

「下の名前、アキだしね」


そう言ってにかっと笑った吉山に苦笑を返すしかない俺。
悲しい秋に埋もれて見えなかったけど、一気に色を感じさせるような笑顔を俺に向ける。


秋みたいに淋しくて切なくて少し寒いのにどこか愛しくて暖かくて、色とりどりに変わっていくから、ついつい秋を待ち望んでしまう。

そんな女。秋みたいな女。



ちなみに俺は季節の中で、秋が一番好きなんだ。



End