隣のあの子は、彼氏と仲良く過ごしているのか。
彼氏を家に招いてわたしのしたかったことをしているのか。

ただの妬みだ。
そんなことわかっているけど。

羨ましいと同時に憎たらしくも思う。


ずるい
ずるい
ずるい


私は出来なかったのに。隣の部屋では幸せな時を過ごしているのだと思うとそんな気持ちに支配される。

廊下の曲がり角を曲がって、エレベーターの前。誰にも見られないこの場所で泣きたくなるこの気持ち。惨めなこの気持ちが溢れてしまいそうだ。

ユウスケと会った次の日にあんな幸せそうなカップルになんて会いたくなかった。

――チンと、音を鳴らしてエレベーターが私の前で扉を開けた。


「あれ?マユ?」


扉の前でにじみ出てくる涙をぬぐったその時に、昨晩嫌と言うほど聞いたこの男の声が響く。


「ユウスケ……」


帰ったはずのユウスケが目の前に立っている。
顔を上げて目を丸くした私にユウスケの姿だ。……何で?


「俺、煙草忘れてなかった?」


ああ、それか。


「あったよ」


涙で赤くなったかもしれない目を、隠すようにすぐに背を向けて、部屋に向かった。

気づかなかったのか何も言わずに普段通りについてくるユウスケ。

部屋の前で、隣のカップルが、もう部屋の中に入っていた事にほっとしてまた出て来てしまわないように早く部屋へと向かう。

なんだか見られたくなかった。
なんだか惨めさが余計に増すようで。彼氏でもなんでもない男を彼氏だと思われるのは、なんだか惨めだ。


「そこで待ってて、取ってくるから」


部屋の鍵を開けて、中に入るとついてくるユウスケを玄関で止めた。すぐ終わることにわざわざ入ってこなくて良い。

ハイライトの煙草とジッポを手に取ると微かに、ハイライトの苦い匂いが私に香ってきたような気がした。


「何で泣いてたの?」


突然の背後からの声に体が跳ね上がった。


「……!驚かせないでよ……!」

「何で泣いてたんだよ、さっき」


振り返って文句を言うと、思いの外に真面目な顔をして私を真っ直ぐに見つめてくるユウスケの視線が私を刺す。