朝、光を感じて目を覚ますと隣にユウスケはいなかった。それはいつものことだからいいんだけど……。

ユウスケはいつも、明るくなる前に帰る。
本当に勝手な男だ。
勝手な男と勝手な女だ。

――あんなに、飲んでたのに、私よりも早く起きるんだね。

でも、それで救われているのも事実。明るい時間に、ユウスケと会ったことはほとんどないから、きっとユウスケは知らない。私のことなんか。

暗い部屋ばかりで、相手の顔も見えない程の暗闇で、互いに何かをごまかしながら抱き合うだけ。

都合のいい男と
都合のいい女

泣きたくなるのは、ただ寂しいだけ。
タバコの煙が目に入るだけ。


メンソールの匂いが私を包み込んで元彼の姿を思い出させる。
どうして未だにこの匂いにすがりつくんだろう。

もう好きではないのに。そんなことは自分で分かっている。あんなにも悲しくて苦しかった恋心は煙のようにいつのまにか私から消えていた。

でもそんなふりをする。きっとこれからも私はメンソールの匂いに彼を思い出して、そうやって自分を保つんだ。

ばからしいなと自分で思いながら煙草を吸い終わって、部屋の中に入る。


「…………?」


足下に冷たい金属の感触がして床を見るとジッポとハイライトの煙草が転がっていた。見覚えのあるものばかり。

――忘れていったのか……。


ユウスケの忘れていった煙草を手に取る。
ユウスケの煙草は苦い。苦くてきつい。メンソールの味なんか吹っ飛んでしまうほどに。

体だけのこの関係を終わりたいという思いがない訳じゃない。

だけど一人は寂しい。だけどそこにすがりついているだけの関係を続けても良いのかはわからない。

そもそも私はユウスケのことを何も知らない。
年は確か同い年、だけどそれも本当かどうかなんか分からない。合コンの時の紹介の時に聞いただけだ。学校だって知らないし、何をしているのかなんか知らない。

一週間に二回か三回酔っぱらってやってくることを考えれば、だいぶ遊んでいるんだろうなと言うことだけは分かる。

体から始まったこの関係。
そこには体以外いらない。
わたしも、ユウスケもそれでいいんだ。

どうしようもないことばかり考えるのに疲れて、ため息を吐き出した。

そろそろ授業に遅れてしまう、そう思ってばかげた思考を振り切りながら学校に行く用意をする。
今日は帰りに買い物をしないとな、なんてことを思いながらドアを開けた。


「あ……こんにちわ」


隣の女の子と、多分その彼氏の二人と目が合って、女の子は私を見て軽く挨拶を交わしてくる。隣の彼氏らしき男も軽い会釈と笑顔を向ける。

辛うじて笑顔だけを作って2人の横を通り過ぎながら舌打ちしたい気分を抑えた。