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「なんでこんな簡単なミスするんだ!」


——……ああ嫌だ。
今でもまだ耳の裏側に課長の声がこびりついているような気がする。

きっと今日も残業だ。昨日も残業で一昨日も残業で、きっと明日も明後日も残業で、多分土曜日も休日出勤することになるんだろう。

ああ、嫌だ。

時間は既に就業時間を過ぎているのに、まだまだ会社に監禁されるであろう私はトイレのふりをしながら屋上に上がった。

小さなデザイン会社で働き始めてもう六年目になるか。都会の中に埋もれる小さなビルの一部屋にある会社は小さいもののそこそこ忙しいし売り上げもある。

それはそれ、明らかにキャパオーバーだ。
それを分かってて早くしろ早くしろ、まだかまだかとバカみたいにそればっかり。


「人数増やせよ」


煙と一緒に吐き出した独り言は、煙と一緒に空に消えた。


屋上から見上げる空は既に陽が沈みかけていて薄暗く、それでもまだかろうじて青さを残していた。

夜になると雨になるとかラジオでやたらテンションの高い女性が言っていた気もする。


煙草を吸ったら事務所に戻らないといけない。そしたら私のミスでもないのにその後始末をさせられるのだ。


元はといえば課長のせいじゃないか。変更を教えてくれなかったし、校正を見せたときにも何も言わなかったじゃないか。


なんで私が怒られないといけないんだ。


仕事の量は最近増えるばかり。そのくせ新しいデザイナーを雇うつもりもなく、私と先輩デザイナーの二人だけに押しつける。誰がどう見たって人手不足だ。そんなにお金を貯め込みたいかクソ社長。
手元の煙草はゆらゆらと白く長い煙を吐き出していて、憂鬱な気分のままその姿を眺めていた。