ショコラ

詩子さんが注文を繰り返す声や、マスターさんのそれに呼応する声が聞こえる。
涙がおさまるまで、その音にぼうっと耳を傾けていると、目の前にコーヒーとケーキが置かれた。


「食べれなかったら、残していいよ」


頭の上から聞こえてくるのはマサさんの声。

なんか私、最近ケーキを食べる時泣いてばかりいる。
本当は泣きながら食べるものじゃないのになぁ。

そう思いながら無理やり喉に詰め込んだ。
甘くて苦いチョコレートケーキ。

いつになったら、ただ幸せな気分で食べれるようになるんだろう。


思いもよらなかったつながり。
絡んだ糸は複雑で、綺麗にほどけるのか分からない。
ただ一つ感じたことは、沙紀の話が私にとっては思ったよりショックじゃなかったということ。

もしかしたら自分の中で、少しずつ整理ができているのかもい知れない。
感情とは離れた所から徹の事を考えられるようになっているような気がする。

この絡みついた糸の中で一番最初にほどけるとしたら、それは私の糸かもしれない。