「……さっきの子と何があったの?」
息を切らしながら、マサさんが言う。
私は答えられなくて、ただ黙って首を振った。
「もう、彼帰ったよ」
「……」
「おいで」
直に聞こえた声には、逆らえなかった。
涙が出たままで頬は叩かれたから赤くて、お店に入るにはかなり恥ずかしいのに、私は手を引かれるままマサさんについて行った。
温かい店内の一番端のカウンターに座らされて、顔を上げられないまま手で目をふさいでいた。
マサさんはメニューのボードを立てて、私の顔が見えないように仕切りを作ってくれた。
特別扱いだ。
いいのかな。
涙は止まらないのに、そんな事を呑気に考えていた。



